歯科医院の内覧会あれこれ

ケーススタディ

2022年6月11日土曜日12日日曜日の2日間、お世話になっている歯科医院さんの内覧会のお手伝いに行ってきました。

私たちのやり方では、内覧会のお手伝いまでが設計デザインを請け負った際の業務だと思っています。

歯科医院さんの設計デザインを先生方やスタッフの皆さんと作り上げるのには、それ相応の時間が必要です。仮に時間をかけずにできたものは、かけた時間に比例した内容になると私は思います。

つまり短い時間で設計したものは、内容も浅くなる場合があるという事です。それと同じく長く携わった歯科医院さんへの思入れもまた、私たちにとっては時間とともに大きくなります。先生方やそのご家族、スタッフさんたちへの感謝と引き渡し後の医院の様子を見させていただける絶好の機会が内覧会です。

昔お世話になっていた東京の有名シェフからよく言われたのは

「デザイナーとか設計って、完成したらお店には来ないでしょ。そうゆう設計士になってはだめだよ」

恩師のような存在のシェフからは何度もそんな話をききました。

実際のところ引き渡し直後というのは、実際には65%程度の完成率なのが現実です。

建物や内装の実際に使い始めてから起こる「予定とは違う使い方」にどれだけ寄り添えるか、それを処理しきることが設計士やデザイナーの本当の評価へとつながります。

私がIKEAの家具を推奨しているのも、工事後、引き渡し後の対応に適しているからにほかなりません。

IKEAの家具は、いつでも必要なだけ変更が可能だからです。

本来の設計業務では建築検査を受け、検査済書をお渡ししたあたりで終了する事が多いはずです。

ですがそれは医院にとって、片手落ちというか、志半ばといった感じになると思います

どんなにかっこいいデザインでも、どんなに美しいインテリアでも、使いやすさや機能性が意匠に劣っている商業建築は多くの場合、長期で維持することが難しくなります。特に新規採用のスタッフさんが多い医院さんの場合は、初期投資に費用を使い果たし、「予想よりもゆっくりな売上上昇」という現実から本来の目的である「使いやすいいいデザイン」の見直しが遅れることになります。

結果、患者さんとのコミニュケーション能力が発揮されず、オープン時の建物の新鮮さにだけ頼りすぎることで、数年後には近隣の医院さんとの差が大きくなっていく・・・なんとなく想像できますよね。それは歯科医院さんに限らず、たくさんの商業施設もまた同じ状況にあります。

最適な予算配分と、ビジネスプランとのギャップ

それをどのような形でプロディユースするかもデザイナーの仕事だと思います。作りっぱなしの設計士やデザイナーが多すぎる現在、予算通りにいかない理由は建築費の高騰だけが理由ではないと思います。

歯科医院さんの内覧会をお手伝いする際に観察していると、高校時代の文化祭のような空気感ができている医院さんには患者さんの「いい反応」が感じられます。

内覧会業者さん主導ではなく医院のスタッフ主導ならなおのこと、患者さんへのお披露目である本来の内覧会の目的が達成され、新しく地元にできた歯科医院を歓迎する雰囲気で空間が満たされます。

最悪なのは内覧会業者さんに任せきりで、医院の主役たる先生やスタッフさんよりも業者さんの動きが目立つ内覧会です。

内覧会が終わった後いなくなる業者さんにどれだけ的確な説明を受けたとしても、永く通いたい歯科医院のイメージを感じてもらえていなかったとしたら、大切なスタートラインであるそのイベントも本来の目的へとつながりません。

初診予約の数をノルマ化した内覧会の在り方は、先ほどお話しした「ビジネスプランとのギャップ」へとつながります。2か月もすれば内覧会業者さんが予約を取った患者さんはリピーターとはならず、厳しい現実を思い知らされます。

私たちデザイナーは、見えない空間を考え意識しなければなりません。ならば内覧会で上に書いたような状況にならないよう、見守りそしてアドバイスができる存在でいる必要があると思います。少なくともその状況すら把握できないような設計士やデザイナーとはビジネスパートナーの関係は作れません。

引き渡し後は私たちは舞台の外から医院を応援する黒子になります、黒子として雑用をしたりオープンまでのお手伝いをします。そして内覧会の際に医院の様子を舞台のそでから眺めるのが私の楽しみでもあります。

「うまく使ってくれている!」

スタッフさんたちが準備をしている様子を見ることは、自分が数か月、数年かけてしてきたことの答え合わせをしてもらっているような気分でもあり反省と喜びがあります。

そうして考えると内覧会は私たち設計やデザインを志す者にとって自分が作ったものへの責任をひしひしと感じる絶好の機会となります。

内覧会では主役を喜ばせるために何をすればいいか?それだけを考えて数日を過ごします

おそらくどんな医療メーカーさんよりも深く現場のことを知るはずの設計士が、黒子として雑務ができないようなら、それは「完成したら要らない人」になったという事です。

私の恩師のシェフに言われた言葉にこんな言葉がありました

「これしかできない人は、それが終わったら要らない人になるでしょ、ずっとここに居たいのなら何でもできる人になりなさい」

デザイナーがカッコよくしていたら、いいデザインができるか?答えはその逆ではないでしょうか。

スペインのアントニオ・ガウディは建築現場に住み、デザインし実験し造り続ける中で最後は孤独な死を迎えます。それは極端な話ですが、設計料に似合う現場との付き合いをどれだけしてきたか?それが内覧会の際に少しでも先生やスタッフさんの喜ぶ姿があれば、これからもこの医院を守っていかなければと思う覚悟に変わります。その覚悟があればこそ、医院の診療が始まってからでも医院に出入りできるデザイナーとなれます。当然、変化によく対応しビジネスチャンスを逃さず以後も寄り添っていく。

そうすれば数年後に、医院の部分改装やチェアの増設などの際にも声をかけてもらえます。というよりずっといてほしいと言われるデザイナーになれます。

内覧会に訪れる、初めて医院に訪れる患者さんや、先生の関係者の方々、スタッフさんの家族や友人たちまでみんなが楽しそうにしている週末の午後・・・

お祭り(内覧会)が終わり、医院の片付けや掃除をお手伝いしていると明日から医院のために何ができるだろうかと考え始めます。やがて内覧会業者さんやお手伝いをしていた関係者の方たちがいなくなると、静かになった医院で先生と夢の話しをします。

「1年後はこうして、2年後には・・・5年後には・・・」

まだ仕事をする前、はじめてお会いした時に聞いていた理想の医院の話しが思い出されます。

こうしてやっと「本当の引き渡し」が終わり、「新しい計画」が始まります。

内覧会にはいろいろな意味と可能性があります。それは患者さんにとっても、先生方にとっても、スタッフさんにとっても、私たち協力業者にとっても同じです。

訪れた患者さんたちが、次に来たときに本来の医院の姿とのギャップに驚かないように、先生やスタッフさんたちが主役になれる内覧会を目指すのが、すべての可能性への近道になると思います!!

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